「奇才ヘンリー・シュガーの物語」ロアルド・ダール


ロアルド・ダールの「The Wonderful Story of Henry Sugar and Six More」
七つの作品がおさめられた短編集です。
ダールの作品の多くは、8歳〜12歳あたりの年齢層に書かれたものですが、これはもう少し上の…もうあまり子供ではいられないけれども大人にもなりきれない、そんな年齢層向けに書かれたもので、そのためかダールのほかの児童書とは、すこし趣が違います。邦訳のほうでは、山本容子さんのカラーイラスト入りのようなのですが、私が読んだ洋書は、挿絵がありませんでした…(涙)
そのためか、英語もちょっと難しめのように感じました。


七編のうち、いちばん長いのは表題作でもある「奇才ヘンリー・シュガーの物語 The Wonderful Story of Henry Sugar」
ダールの大人向けの短編には、賭博をテーマにした作品も多いのですが、これもある意味ではその系統に連なる作品。ただし、いわゆる「いかさま」の方法が、かなり超常的ですので、やっぱり一種のファンタジーというか、メルヘンに近い作品です。


「動物と話のできる少年 The Boy Who Talked with Animals」
動物と話のできる能力をもった少年が、カメをたすけるお話。これもメルヘンに近い作品。


「ヒッチハイカー The Hitchhiker」
小説家の私は、ヒッチハイカーをひろった。男は競馬場へ仕事をしに行くという。その意外な職業とは…?
この作品は、早川文庫「王女マメーリア」にも収録されています(訳者さんは違います)。
七つのおはなしのなかでは、いちばんピリッとオチがきいて、切れ味のいい作品。一種のミステリ。


「ミルデンホールの宝物 The Mildenhall 」
英国で発掘された、古代ローマの埋蔵品をめぐる実話。関係者にダールが取材して、それをもとに書いたもの。雑誌に掲載されたが、そのときのままではなく、すこし手直しをしたとのこと。
このお話は、ラルフ・ステッドマンが絵をつけた絵本も発売されています。


「白鳥 The Swan」
読んでいて、なんとも「イヤ〜」な感じに襲われたお話。人を殺すことすら、なんとも思っていないような酷い少年たちがでてきます。
ダールの児童書作品では、悪人は必ずコテンパンにやられるのだけれど、これは…


「思いがけない幸運 Lucky Break」
ダールが、作家のC.S.フォレスター Cecil Scott Forester(「ホーンブロワー提督」シリーズなどが有名)に出会って、はじめての作品が雑誌に掲載されるまでの、自伝的内容。
小説の作り方なども書かれている。小説家志望のかたには参考になるかも…?


「楽勝 A Piece of Cake」
アメリカの雑誌に掲載された、ダールのはじめての作品。第二次世界大戦のときに、戦闘機に乗っていて、墜落したときの経験が書かれている。雑誌に載ったときのままではなく、多少の手直しをしたもの。
雑誌掲載時には、編集者によって改変され、敵機によって撃墜されたことになっていたらしいが、実のところはどうだったのか…ということについては、「単独飛行」において語られます。そちらと合わせて読むのがオススメ。


→本の詳細・洋書(amazon)


邦訳は、「ロアルド・ダールコレクション7 奇才ヘンリー・シュガーの物語」、旧訳が小野章:訳「ヘンリー・シュガーのわくわくする話」というタイトルです。

奇才ヘンリー・シュガーの物語 (ロアルド・ダールコレクション 7)

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ヘンリー・シュガーのわくわくする話 (評論社の児童図書館・文学の部屋)

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