「魔女がいっぱい」ロアルド・ダール

ロアルド・ダールの「魔女がいっぱい」を読みました。


この物語に登場する魔女は、なんというか、すごいです。まず特徴として、「かぎ爪」「はげ」「鼻の穴の形がヘン」「足に指がない」「つばが青い」など。それで、かぎ爪を隠すために手袋をし、はげを隠すためにカツラをかぶっているのですが、カツラがむれてかゆく、いつも頭をかいている、といったぐあい…
で、魔女にとって子供は、「犬のウンコ dogs' droppings」のにおいがして、臭くてたまらないものだから、世界中から子供を消そうとしています。
主人公はたまたま、魔女達の計画を盗み聞きしてしまい、それがバレて、ネズミに変えられてしまいます。


しかし主人公は考えます。
ネズミは学校に行かなくてもいいし、すばやく走ることもできるし、しっぽをつかって、いろいろすごい芸当をすることもできる。それに、

When mice grow up, they don't ever have to go to war and fight against other mice. (p119)


ネズミになれば、大きくなっても戦争にいかなくていい。殺したり殺されたりしなくてもいい。
だから「人間よりネズミのほうがいい」、と。


もちろん、いいことばかりではなくて、ネズミの寿命は人間よりもうんと短い、というリスクもあるのですが(そこをきちんと書くダールの作品は、良心的だと思います)、それでもネズミのほうがいい、と主人公は考えます。
裏を返せば、「人間は、それほどいいってものでもない」ということです。


そこが、この物語の怖いところ。
もし子供さんに、「人間でいるって、そんなにいいこと?」と聞かれたら、はたして答えることができるかどうか。「ネズミは人間に殺されるけれど、人間は人間に殺されることはない」なんて、いえませんでしょう?


そして主人公は述べます。

It doesn't matter who you are or what you look like so long as somebody loves you.(p197)


私がここで、ちょっと考えさせられたことは、
普通の親ならたいてい、子供には「立派な人」になってもらいたいですよね。少なくとも、ネズミになってもらいたくはないはずです。
けれど本人が、ネズミで満足しているなら、ネズミでもいいんじゃないか。親が望む「人間」じゃなくてもいいんじゃないか…、ということ。


ただ、おそらくこの物語で、作者がいちばん嬉々として書きたかったことは…本当に「嬉々として」という感じがするのですが…

What makes her doubly dangerous is the fact that she doesn't look dangerous. (p10)


ということなんじゃないかな…と。


とはいえ、「危険そうに見えないから女性は危険なんだ」なんてことは考えないで、この物語は、ネズミに変身する楽しさや、悪い魔女をやっつける爽快さなど、ただただ楽しい物語、と思って読むのがいちばん、という気がします。ネズミの寿命の短さに関しても、大人だから「短すぎる」と思うのであって、子供にはそうではないかもしれません。


だからこの物語のラストは、ハッピーエンドなのだ、と思います。
人によって、ハッピーエンドかどうか、意見がわかれそうな気はしますが…。


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英語としては、基本的にはそんなに難しくないです。絵もたくさんですし。ただ、大魔女が「外国なまり」という設定で、へんな英語をしゃべるので、そこだけが少々よみにくいかもしれませんが、全体としては、高校生さんなら楽勝で読めるレベルだと思います。


邦訳もでています。

魔女がいっぱい (ロアルド・ダールコレクション 13)

魔女がいっぱい (ロアルド・ダールコレクション 13)

  • 作者: ロアルドダール,クェンティンブレイク,Roald Dahl,Quentin Blake,清水達也,鶴見敏
  • 出版社/メーカー: 評論社
  • 発売日: 2006/02/01
  • メディア: 単行本
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