「ウィルキンズの歯と呪いの魔法」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ

Witch's BusinessWitch's Business
Diana Wynne Jones

Trophy Pr 2004-03


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but the fact remains that we've done a bad act disguised as a good one.
それでも、いいことに見せかけて悪いことをしているという事実は変わらないのよ。(引用)

ダイアナ・ウィン・ジョーンズの「ウィルキンズの歯と呪いの魔法」(1973年)
原題は、原書の英国版は「Wilkins' Tooth」、アメリカ版は改題されていて「Witch's Business」というタイトルです。私が持ってるのはアメリカ版ペーパーバックで、何年か前に買ったものなんですけど、いま検索したら入手が難しくなってるみたいです…。

ダイアナ・ウィン・ジョーンズのデビュー作は「Changeover」という一般向けの作品で、次に刊行された、はじめての児童向けの作品が、この一冊。
英語は対象年齢8歳以上、比較的読みやすかったです。邦訳とあわせて読みました。
邦訳は、早川書房原島文世:訳 佐竹美保・絵

あらすじ:
椅子を壊してしまったために、お小遣いを止められてしまったジェスとフランクの姉弟は、お金ほしさに、誰かのかわりに「仕返し」をして報酬をもらう、「仕返し有限会社」をはじめます。しかし、どういうわけか仕事を請ければ請けるほど、もうかるどころか、借金が増えるありさま。いじめっこに仕返しをしてやるつもりが、いじめっこの手先になったり、本物の魔女…そもそも、お金をもらって誰かのかわりに誰かを痛い目にあわせるなんてことは本来は魔女の仕事…にも関わることになり、事態はどんどんのっぴきならない状況に…!

作中に「Nine Men's Morris(九人のモリス)」というゲームのことを魔女が口にする場面があるのですけど、それは「Mill (ミル・水車小屋)」とも呼ばれているボードゲームのようです。魔女に呪われているアダムズ一家に水車小屋があるのは、それと関係があるように思います。
「九人のモリス」は、ふたりのプレイヤーがそれぞれ九つの石を使うゲームで、まず交互に石を並べていき、自分の石を三つ一列に並べることができると相手の石をひとつ取ることができ、相手の石を二つにまで減らしたら勝ち、というものです。

(こちらのサイトさんにルールが図付でわかりやすく説明されています→http://210.150.246.43/game.hp/morris/1.html


この物語は、「九人のモリス」を実際の人間を駒にして行っているような感じがします。
魔女のビディさんが敵側のプレイヤー、主人公側のプレイヤーはジェスに「秘密兵器」をくれる女の人かと思います(その正体はネタバレになるので書けません…。ただ、ビディさんと同じく「魔女」で、駒(ある男の人)を奪いあって対立する存在です)
ビディさんのあやつる九つの駒は、いじめっこのバスターたち九人。
主人公側は、主人公たちとその仲間が駒。ジェスとフランク、ヴァーノンとサイラス、マーティン、フランキーとジェニーとその父親と叔母さん、の九人かと思います。最初は主人公側のゲームが負けていて、どんどん魔女に駒を取られて(魔法にかけられて操られたり、病気になったり)しまうけれど…?



「仕返し有限会社(Own Back Ltd.)」という発想は、ロアルド・ダールの「"復讐するは我にあり”会社(Vengeance Is Mine Inc.)」(早川文庫「王女マメーリア」所収)をちょっと思い出しました。ストーリーはまったく違いますが。
「Vengeance(復讐・仕返し)」という単語では、「Heaven's vengeance is slow but sure 天罰は遅くとも必ず来る(天網恢恢疎にして漏らさず)」という諺があるみたいなんですけど、「ウィルキンズの歯と呪いの魔法」も、ある意味そういう物語です。

ホリー・ブラック&トニー・ディテルリッジ「スパイダーウィック家の謎」でも、「長靴をはいた猫」のラストがラストに生かされるのですが、この「ウィルキンズ〜」も同じです。作品としてはこちらのほうが先ですが。
長靴をはいた猫」は青空文庫さんで無料で読めます→http://www.aozora.gr.jp/cards/001134/card43118.html


ウィルキンズの歯と呪いの魔法 (ハリネズミの本箱)ウィルキンズの歯と呪いの魔法 (ハリネズミの本箱)
Diana Wynne Jones 原島 文世

早川書房 2006-03


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