ナルニア国物語「さいごの戦い」C.S.ルイス

The Last Battle (The Chronicles of Narnia)The Last Battle (The Chronicles of Narnia)
Pauline Baynes

Harpercollins Childrens Books 1994-08


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The term is over: the holidays have begun. The dream is ended: this is the morning.
学校は終わった。休みがはじまったのだ。夢はさめた。こちらは、もう朝だ。(本文より)

C.S.ルイスナルニア国物語7巻、「さいごの戦い」(原題:The Last Battle)1956年。カーネギー賞受賞作。
邦訳:岩波少年文庫(新版)、瀬田貞二:訳、竹野一雄:解説。

最終巻です。これまで登場した人物たちがほぼ勢ぞろいしますが、中心となるのはナルニアの最後の王チリアンと、ユニコーン、そして「銀のいす」で活躍したユースチスとジルです。


あらすじ:
ある日、ナルニアアスランがあらわれたという知らせが、王の耳にとどきます。しかしそれは、性悪な猿のヨコシマが、ライオンの皮をロバに着せて演じさせた、偽アスランなのでした。
猿のヨコシマはアスランの命令と偽って、ナルニアのものをいうけものたちをカロールメンの奴隷に売ったり、生きた樹をきりたおしたり、非道な行いをします。
やがてカロールメンがナルニアを侵略し…、さいごの戦いがはじまります!


にせものの神があらわれることによって、神の名を騙るものがあらわれたことによって、神を信じないものが生まれることなどが書かれます。
そして、どんな世界にも終わりがあるように、ナルニアにもまた終わりが訪れるのですが…?


プラトンイデア論などがでてきますが、難しいことを考えなくても、ナルニアを読むと、単純に天国といったものを信じられる気持ちになります。

おそらくは最後の審判について書かれているのだとは思いますが、このあたりのことは詳しくないのでよくわかりません。


むかし読んだときは、どうしてピーターが優遇されるのか、長男だからだろうけれど、よくわからないな…と思ったものですけど、ピーターはpeter、つまりペテロだからなのかな。ペテロはキリスト教で「天の国の鍵」をもつとされますが、ナルニアのこのお話でも、鍵を渡されるのはピーターです。


ネタバレになるのであまり書けませんけど、スーザンについて思うことは、「9」という数字です。七人と、初代ナルニアの王と女王のふたりを加えて、人間が九人。スーザンをたすと10人になってしまう。3×3の完璧な数じゃなくなってしまうのもひとつの理由だったりするのだろうか…とちょっぴり思いました。アーサー王をアヴァロンでむかえたのは9人の女性であるとするジェフリーの著書もあるようですし…。それはあまり関係ないかもしれませんが、最後の王をむかえるのはケルト的にもキリスト教的にも「10」よりは「9」という数字がしっくりくるような気がします。前作の「魔術師のおい」で少しでてきた「若さの国」はケルトの楽園ティル・ナ・ノーグのことかもしれませんが、アヴァロンも林檎の木の島なので、ナルニア=アヴァロン=エデンの園という感じで書かれているんじゃないかという気が少しします。


今回、全巻をあらためて読んでみて、やっぱりナルニアはおもしろい…とくに三巻の「朝びらき丸〜」から冒険色がぐんと濃くなっていくように思います。食事の場面のおいしそうなこととか、風景描写の的確さなどは、むかしはたいして気をひかれなかったのですけど、上手い。戦争経験があるからか、それは関係ないかはわかりませんけど、サバイバルの描写に説得力があって…食事がおいしそう、というのはそれと無関係じゃない気がします。
騎士の物語でもあるので、男の子は敵を討ち取るのがほまれ…つまり人殺しが立派なこととされるわけなので、そのあたりや、キリスト教の倫理観や世界観、来世観などが日本人のそれとは少し違うこと…など…児童書としては気になる方もいらっしゃるかもしれないなとは思いますし、小説として考えたときに、アスランが全能すぎるというのも欠点かもしれないとは思いますけれど、それでもやっぱりおもしろい…それでもおもしろいお話に書けてしまえるというのは素直にすごいと思います。普通はつまらなくて読めないものになってしまうのに。

あちらの八歳の子供さんでも読める本らしいので基本的には英語はそんなに難しいものじゃないのと、挿絵も多くてわかりやすいのですけど、私の英語力は八歳以下なので、わからない単語、読み解けない文、読み違えた文、けっこうあります…。


さいごの戦い (岩波少年文庫―ナルニア国ものがたり)さいごの戦い (岩波少年文庫―ナルニア国ものがたり)
C.S. Lewis 瀬田 貞二

岩波書店 2000-11


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