ナルニア国物語「魔術師のおい」C.S.ルイス

The Magician's Nephew (Chronicles of Narnia, Book 1)The Magician's Nephew (Chronicles of Narnia, Book 1)
Pauline Baynes

Harpercollins Childrens Books 2002-03-05


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he has made himself unable to hear my voice. If I spoke to him, he would hear only growlings and roarings.
この老人はみずからわたしの声がきこえないようにしてしまっている。わたしが話しかけても、ただのうなり声か、ほえ声にしかきこえないだろう。(本文より)

C.S.ルイスナルニア国物語6巻、「魔術師のおい」(原題:The Magician's Nephew)1955年。
邦訳:岩波少年文庫(新版)、瀬田貞二:訳、中沢けい:解説。


ライオンと魔女」で登場したカーク教授が、少年だったころの話になります。ホームズがベーカー街にすんでたころ、イーディス・ネズビットの「宝さがしの子どもたち」の子どもたちが宝探しをしていたころのロンドンが舞台です。つまり日本だと夏目漱石が英国留学していたころ…になるのでしょうか。戦争がはじまるまえの時代です。

(ネズビットの「宝さがしの子どもたち The Story of the Treasure Seekers」の原文はProject Gutenbergで読めます→http://www.gutenberg.org/etext/770
あと、先日のガリバー旅行記の原文、イラストつきのほうにリンクしたのですが、そっちは途中までのお話で終わっているバージョンのようでした。すみません。全部のお話が読めるのはこちら→http://www.gutenberg.org/etext/829


あらすじ:
おとなりどうしのポリーとディゴリーは、ディゴリーの親戚の、アンドリューおじさんの魔法の実験にむりやりまきこまれて、べつの世界にとばされてしまいます。そこは、たくさんの世界の「あいだにある場所 in-between place」でした。ふたりはそこから魔女がすべてを滅ぼしてしまった世界へ行ってしまい、自分たちの世界に魔女をつれこんでしまいます!


ライオンと魔女」では特に説明のないままだった街灯や、衣装だんすの謎があきらかになります。ナルニアの創世のようすも語られるので、刊行順ではなく年代順で読むならば、この巻がナルニア国シリーズの第一巻になります。


前作の「馬と少年」でも、理想の王様といった感じで登場する王様は、王とはいえ法に従わなくてはならない、といったことが語られますが、それとは反対に、自分はとくべつだから法なんか無視してもいい、と考えている傲慢な人物、自分のことしか考えていない人物として、魔女やアンドリューおじさんは描かれます。また、主人公のディゴリー少年にしてみても、のちに学者になるだけあって探究心や知識欲といったものがあり、それを満たすためには強引なことや、やってはいけないこともやってしまう…というあたりが、科学者の倫理の問題を考えさせられます。
アスランが子供たちに、これからはじまる戦争、つまり二度の世界大戦について暗示する場面があり、わたしたちのこの世界も魔女の世界のように、すべてを滅ぼしてしまう方法を誰かがみつけ、それをつかってしまうかもしれないと警告します。おそらくそれは原爆のことなのかな…と思いました。


魔術師のおい (岩波少年文庫―ナルニア国ものがたり)魔術師のおい (岩波少年文庫―ナルニア国ものがたり)
C.S. Lewis 瀬田 貞二

岩波書店 2000-11


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