「ずっとお城で暮らしてる」シャーリイ・ジャクスン

We Have Always Lived in the CastleWe Have Always Lived in the Castle
Shirley Jackson

Puffin 1984-05


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"Poor strangers," I said."They have so much to be afraid of."
「かわいそうな、知らない人たち」あたしは言った。「いろんなことをこわがらなくちゃいけないのね」(訳は邦訳より引用)


シャーリイ・ジャクスンの「ずっとお城で暮らしてる We Have Always Lived in The Castle」1962年。

邦訳は1994年に学研から山下義之:訳が単行本で出ていましたが入手困難な状況がつづいてました。しかたないので原書を買って一度読んだことがあるのですけど、せいぜいあらすじが把握できたかできないかていど。そのうちもっと実力がついたらもう一度読もうと思ってたのですけど、去年、めでたく復刊…というか創元推理文庫さんから新訳(市田泉:訳)がでたので、原書とあわせて読んでみることにしました。文庫は訳者さんのあとがきはありませんが、桜庭一樹さんの解説がついてます。


やっぱり細かいところまでわかると物語はぐんと面白いです。特にこのお話は、あまり無駄な文章がないというか、きちんと計算されて書かれている感じがします。1962年、今から46年も昔に書かれた小説ですけど、まったく古びてなく、現代でもじゅうぶんに通じる力があるのがすごい。


物語は十八歳の少女、メアリ・キャサリン・ブラックウッドの一人称で語られます。彼女のことを姉のコンスタンスはメリキャットと呼びます。
田舎の村の大きなお屋敷で、メリキャットは姉とジュリアンおじさん、それと飼い猫のジョナスと一緒に暮らしています。ほかの家族はみな死にました。毒入りのお茶を飲んで死にました。砂糖に砒素が入っていたのです。


外に出て、人に見られることを怖がるコンスタンスのかわりに、メリキャットは週に一度、村へ買出しにでかけます。村人たちから向けられる悪意は不愉快だけれど、それさえ我慢すれば、とても幸せな毎日でした。
ところがそんな生活に変化がもちこまれます。それは突然やってきました。死んだ父親によく似た忌まわしい姿で…


あんまり書くとネタバレになってしまうので書けませんが、自己愛性人格障害という言葉が、読みすすめるうちにちらりと浮かびました。
アメリカのホラー小説の古典であり、幽霊屋敷ものでもあるヘンリー・ジェイムズの「ねじの回転」でも、物語の語り部である人物の、その記述の信憑性について読者が信用できないという手法がとられていますが、この物語も手法的にはそれと同じような気がします。


まともそうに見える人がそうではないかもしれない怖さ、人を信用することの怖さ、人を信用できない怖さ、そういったもろもろの怖さは日常生活にもごろごろ転がっていて、毒殺犯と一緒にお茶を飲む怖さというのは、それのちょっと極端な例にすぎないだけなんじゃないかと思わされるのが、この小説の本当に怖いところかなあと思いました。


ずっとお城で暮らしてる (創元推理文庫 F シ 5-2)ずっとお城で暮らしてる (創元推理文庫 F シ 5-2)
シャーリイ・ジャクスン 市田

東京創元社 2007-08


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