「ザ・ギバー 記憶を伝える者」ロイス・ローリー

The Giver (Readers Circle (Laurel-Leaf))The Giver (Readers Circle (Laurel-Leaf))

Laurel Leaf 2002-09-10


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ロイス・ローリー Lois Lowryの「ザ・ギバー 記憶を伝える者」
原題「The Giver」1993年 を読みました。
1994年のニューベリー賞受賞作。


邦訳は、講談社から掛川恭子:訳で出ていましたが、絶版とのこと。
しかし新訳が「ギヴァー 記憶を注ぐ者」というタイトルで、新評論から島津やよい:訳で近々発売されるようです。
とりあえず原書だけ読みました。


特にこの時期にふさわしい物語を、と思って選んだわけではなかったのですが、結果的には、まさに今の時期にぴったりの物語でした。
雪の降る寒さにふるえながら、もうじきクリスマスというこの時期に読めてよかったです。


あらすじ
物語の主人公ジョーナスは、戦争や死という言葉のない世界で、その概念すら知ることもなく、飢えもなく苦しみもない世界で暮らしています。
12歳になり、職業を与えられることになったジョーナスは、<記憶を受け継ぐもの>に選ばれます。
それは、ただひとり人々のために、真の苦しみや痛みを背負うことになる特別な、そして尊い職業なのでした…


この物語の世界では、職業は与えられるもので選択の自由はないし、家族といったものは存在しますけれども血のつながりがあるわけではありません。
子供を生む専門の職業があり、それは職業としてはさほど尊敬を得られるものでもなく、また産んだ子供を自分が育てることはありません。
人口は完全に管理され、勝手に増えることのないよう、その原因となる欲望は薬によって抑制されています。


ある意味、非常に天国に近い世界です。天候も管理され、寒さもなく雪が降ることもありません。人々は平穏な人生を送ることができます。しかしそれは選ばれた人間のみが送ることのできる生活です。選ばれることがなかったり、他の人間の迷惑や社会の荷物になったりすれば、<リリース>されます。生まれるまえにいたところへ…。


最初は、よくある設定の物語だなと思いながら読み、なかなか理想的な社会だよね、なんて思いながら読んでいたのですが、だんだんだんだん…気味悪さがつのってきて、この世界の人間には痛みや悲しみがないんじゃなく、痛みや悲しみを感じないだけなんだ…とわかったときには、なんともいえない恐怖すら覚えました…。


そもそも、たったひとりにすべての苦しみを背負わせて、ほかの人間は幸せって、それでいいのか、とか、考えさせられたわけなのですが、それってもしかするとキリスト教の…よく知らないんですがイエス・キリストはすべての人類の罪を身代わりになって背負ったんだとかなんだとか、そんなことをどっかで聞いたか読んだかしたような…。
重要な登場人物である Gabriel は、大天使ガブリエルの名前だし…。
あと、主人公の名前 Jonas は、辞書をひくと旧約聖書Jonah(ヨナ・イオナ)からきている名前のようですが、<不幸(凶事)をもたらす人物>って意味もあるようで。
なんでも、海が荒れた責任をとって海に捨てられて、巨大な魚にのみこまれて、やがて吐き出されたとかなんとか。
ヨナ書はこちらで読めますけど→http://ja.wikisource.org/wiki/%E3%83%A8%E3%83%8A%E6%9B%B8(%E5%8F%A3%E8%AA%9E%E8%A8%B3)
なんかわかりにくいです…。
ただ、ジョーナスが日焼けしすぎて痛みを感じたエピソードとか、いわゆる<犠牲>に選ばれるとか、いろいろ関係ありそうな感じがします。感じがするだけでそれ以上のことは私にはわかりませんが。そもそも英語も7〜8割くらい読めたかなあという感じがするだけで、細かいところでよくわかっていないところもたくさんあるかと思うので、なんともいえません。


なお、この物語には続編がでていて、全部で三部作とのこと。ただ、邦訳がでているのは今のところ第一作だけのようです。

ギヴァー 記憶を注ぐ者ギヴァー 記憶を注ぐ者
島津 やよい

新評論 2010-01-08


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