ベルガリアード物語「勝負の終り」デイヴィッド・エディングス

Enchanters' End Game (The Belgariad)Enchanters' End Game (The Belgariad)
David Eddings

Ballantine Books (Mm) 1998-03


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After today, nothing will ever be the same again, will it?
今日を過ぎれば、ぼくたちは二度と同じところへは戻れなくなるんだろう?(引用)


デイヴィッド・エディングス、ベルガリアード物語の第五巻。「勝負の終り」 原題「Enchanters' End Game」 1984
邦訳はハヤカワ文庫、柿沼瑛子:訳、HACCAN:表紙画


あらすじ
敵地に潜入したガリオンとシルクとベルガラスは、悪霊と対決したり新兵狩りから逃げたり、敵国の王のひとりと密談したりしながら決戦の地をめざします。
神を相手に戦うことに、不安と恐怖を抱くガリオンの心の弱いところを狙って、心理攻撃をしかけてくるトラク
一方、もうひとつの予言によって、トラクの花嫁となるべく運命づけられているポルガラは、ダーニクやセ・ネドラ、エランドとともに敵の手におちてしまい…?


最終巻。続編もあるためか、残った謎も少しありますが、物語はいったん幕をおろします。
一冊が普通の本の倍くらいの厚さがあるので、なんだか十冊くらい読んだような読了感。
読んでいる途中でも感じたのですが、読み終えて強く思ったのは、やはり最初から構成とか設定とか、きっちり練って作られた物語なんじゃないかな…ということ。思いつくままに書いていったら五巻もつづいちゃって完結したよ、というふうではなく、最初から五巻って決めて、采配して書かれている感じ。
ほんのちょっと出てきて、二度とは出てこない超脇役かなと思っていた人物が、再登場して重要な役割りを担ったり。ささいなエピソードが後の伏線となっていたり。
ガリオンとセ・ネドラの水浴場面。ラブコメによくある、お風呂場で偶然、裸を見られちゃってドキッ☆、みたいな、そんな程度のエピソードだと思ってましたけど、まさかアレが、トラクの心理攻撃を粉砕するために用意された、世界の命運を左右する、重大な意味のあるエピソードだったとは…。


あと、邪神であるトラクの復活を、真に願っている人物がひとりもいない。これがこの物語の特殊なところだなあという気もします。<珠>が盗まれたときも、それを使ってトラクを目覚めさせようと思っている者は、敵方にもいませんでした。
ラクを神と崇めてはいるけれども、慕ってはおらず、本音のところでは敵国の人々もトラクのことは、永遠に眠りつづけるか、滅びてほしいと思っていることが、この最終巻ではかなりはっきりと書かれます。


誰よりも美しい神だけれど、誰にも愛されない神。
このことと、全編を通して<母と子>といったものがキーワードとして常に存在していたこと――<珠>がトラクに反抗したのも、トラクが<珠>の<母>である大地を引き裂いたからですし、そのことと、ポルガラに危害が加えられて、ガリオンがチャンダーを燃やしたときの状況は重なりますし、シルクの母親のエピソードなども重なります。そのほか、ヴォルダイのエピソードや、各王妃のエピソードなど、手を変え品を変え、<母>といった存在について常に何か書かれていた――が、最後につながります。
<珠>とトラクは、ある意味よく似ていて、どちらも母親を求める<コドモ>。
ガリオンも<コドモ>だったわけですが、母親以外の愛を知って、オトナになれたということかなあ。コドモとコドモのケンカなら、どちらが勝つかわかりませんが、オトナとコドモが戦えば…


しっかし、なんというか、すごい結婚ラッシュ。
シルクじゃないけど、「何だって誰もかれも結婚したがるんだ」って言いたくなる気持ちも少しわかる…けど、幸せオーラいっぱいでいいなあ。
続編も楽しみです!


勝負の終り - ベルガリアード物語〈5〉 (ハヤカワ文庫FT)勝負の終り - ベルガリアード物語〈5〉 (ハヤカワ文庫FT)
柿沼 瑛子

早川書房 2005-06-23


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書庫:デイヴィッド・エディングス