ベルガリアード物語「竜神の高僧」

Magician's Gambit (The Belgariad, Book Three)Magician's Gambit (The Belgariad, Book Three)
David Eddings

Ballantine Books (Mm) 1995-07


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なぜぼくなの?
Why me?(引用)


デイヴィッド・エディングス、ベルガリアード物語の第三巻。「竜神の高僧」 原題「Magician's Gambit」 1983年
邦訳はハヤカワ文庫、佐藤ひろみ:訳、HACCAN:表紙画


あらすじ
ガリオンのなかにいて、ときどき手助けをしてくれる不思議な声が、多くのことを語りはじめます。
予言は二つあること。ガリオンのなすべきことがすべてのカギになっていること…
亡霊の国となったマラゴーを抜け、<谷>で神アルダーと会い、ウルゴから一行はいよいよクトル・マーゴスへ。
予言の仲間がすべて揃い、長年の因縁に決着をつけるべく魔術師の死闘がはじまったとき、<珠>を持った子供がガリオンに近づき、一言発します。
「エランド(使命)」


いよいよ珠の奪還。物語はひとつの山場をむかえます。
原題の「Magician's Gambit」の「Gambit(ギャンビット)」はチェスの用語。ベルガリアード物語の原題には全部、チェスの用語が使われてます。一巻はポーン、二巻はクイーン。「Queen of Sorcery」なので、クイーンはポルガラのことを指すのかなという気がします。「Sorcery ソーサリー」は「魔術」。「sorcerer ソーサラー」は男の魔術師で、「sorceress ソーサレス」は女性の魔術師。ベルガラスやポルガラは、ソーサラーソーサレスと呼ばれています。
でもって、ベルガラスは今回の敵、クトゥーチクのことを「magician マジシャン」と呼ぶことに固執しています。マジシャンというのは、魔法使いの意味ももちろんありますけど、手品師のことでもあるので。
どうやら、階級(?)的には ソーサラー>マジシャン のようなんですけど、この先の巻の題名には「wizardry ウィザードリー」「enchanter エンチャンター」とでてきて…。ソーサリーを使うソーサラーと、ウィザードリーを使うウィザードの違いってどこにあるのか…辞書をひいてもよくわからないんですよね。日本語だと同じ「魔法」で「魔法使い」なので。たぶん微妙な違いがあるんでしょうけど…


この作品で主人公たちが使う「魔法」は、「意志 Will」と「言葉 Word」です。特に大事なのは「意志」で、言葉は必ずしも必要ではありません。魔法というより超能力に近いです。意志の力さえ強ければ何でもできる…とはいえ、たったひとつタブーがあります。「存在そのものを消そうとすること」。この禁忌を破ると、自分の方が消されることになります。
殺してはいけない、ということとは微妙に違うのですが、よく似ているので、魔法を使って相手を殺そうとするときは慎重にならないといけないようです。怒りのあまり「いなくなれ!」とか「消えろ!」とか、うっかり願ったり言葉に出してしまうとやばいってこと…だと思います。


すべては予言どおりに事が運ばれてゆく…というわけではなく、予言通りに事が運ぶようにがんばっている物語だということが、今回かなりはっきりとわかってきます。ガリオンの頭のなかのお友達は、「宇宙本来の目的意志」といったもので、このあたり難しくてちょっとよくわからなかったのですが、もしかするとアカシックレコードとかと関係あるのかもしれません。アカシックレコードというのは…詳しくないので違ってたらすみませんが…過去や未来の起きるすべての出来事が記されているもの。そのアカシックレコードに記されたとおりに世界はすすんでいくはずだったのに、ちょっとしたアクシデントから、そうではなくなり、そこに記されていることと違ったことが起きるようになってしまった。その軌道を修正するためには、いくつかの重要な出来事が、記されているとおりに起きないといけない…というようなことかな…?
未来から過去にタイムスリップした場合に似ているかもしれません。自分が生まれてくるためには父親と母親が結婚しないといけないのに、アクシデントから、そうはならない可能性がでてきてしまった。多少の細かいことは違っていても、とにかく最終的に結婚してくれさえすれば、自分は生まれてくることができるので、なんとかふたりをくっつけようとする…みたいな。


なんというか、予言というのはシナリオみたいなものかな、という感じがします。もしくはプロット。
あらかじめ作ったプロットどおりにキャラクターが動いて、きめられたイベントをこなして、予定されたラストをむかえるように、作者がキャラクターに話しかけて、こうしろああしろと指示しているような…。
ガリオンの頭のなかの声は作者なんじゃないかと疑いたくなるような…。


竜神の高僧 - ベルガリアード物語〈3〉 (ハヤカワ文庫FT)竜神の高僧 - ベルガリアード物語〈3〉 (ハヤカワ文庫FT)
David Eddings 佐藤 ひろみ

早川書房 2005-04-21


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書庫:デイヴィッド・エディングス