「移動都市」フィリップ・リーヴ

Mortal Engines (The Hungry City Chronicles)Mortal Engines (The Hungry City Chronicles)
Philip Reeve



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けど、今はただうろつきまわって食いあってるだけ。みんなバカだから止めかたがわかんないんだよ
Now they just keep rolling around and eating each other 'cause people are too stupid to stop them.


フィリップ・リーヴ Philip Reeveの『移動都市』 原題『Mortal Engines』 2001年
邦訳は東京創元社から安野玲:訳で出ています。創元SF文庫。後藤啓介:表紙絵


本国の英国や、アメリカでもいくつかの賞をとった作品とのことですが、日本でも2007年の星雲賞を受賞しています。
(その際の作者のコメントは、原文と邦訳と両方、出版社さんのサイトに掲載されています→http://www.tsogen.co.jp/wadai/0709_03.html


あらすじ
60分戦争で世界が崩壊し、ロンドンが世界最初の移動都市になってから千年。
大ロンドン博物館の、しがない三級見習い士の少年トムは、ある日、ロンドンの英雄ヴァレンタインの命を救います。
しかしその結果、外の世界に叩き落とされることに。
生まれも育ちも移動都市ロンドンっ子のトムにとって、動かない地面を自分の足で歩くなんて、それだけでも耐えがたいもの。
おまけに、帰郷をめざして行動をともにすることになったのは、ヴァレンタインの命を狙った少女で…?


都市がまるでイキモノ、飢えたケダモノか神話世界の怪物のごとく動きまわり、ほかの都市を捕食する世界。
物語はテンポよく軽快に進みます。ユーモアや遊び心もたっぷり。
セント・ポール大聖堂を改造して、最終兵器をぶっぱなしちゃうあたりとか、ホントばかばかしくて好きです。ドーム(たぶんこれ→http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%BB%E5%83%8F:Stpauls_from_paternoster_sq.jpg)が真っ二つに割れるのですが、その衝撃ってもしかすると、奈良の大仏さまが真っ二つに割れて中からミサイル発射しちゃうようなインパクトなのかもしれません。大英…じゃなくて大ロンドン博物館のキュレーターでなくても怒りたくなりますよ…。
そしてラスト近くになると怒涛のシリアス展開。ばかばかしさと真面目さのバランスがとても良くて、次から次へと危機は訪れるし、ページをめくるのが楽しい本でした。


この作品は、四部作の一作目なのですが、作者は最初シリーズ化するつもりはなかったとのことで、これ一作でもきちんと完結しています。
邦訳と洋書と両方読みました。
邦訳だとシュライクとなっている殺人兵器の名前が、私の買ったアメリカ版のペーパーバックだと「Grike」になっていて、発音的にヘンだなと思っていたのですが、どうやら原著の英国版では「Shrike」なのを、アメリカ版では名前を変えたみたいです。どうして名前を変える必要があったのかはよくわかりませんが…。
「Shrike シュライク」は、早贄をする鳥のモズのことで、またアメリカのミサイルの名前でもあるようです。あと、「愛する男を殺そうとする女」という意味もあるようです…。なんでそんな意味があるんだろう…
ちなみに「Grike」だと、「岩の空隙」という意味のようです。意味あい的には、シュライクって名前のほうが、本当にピッタリなんですけど…。


移動都市 (創元SF文庫)移動都市 (創元SF文庫)
安野 玲

東京創元社 2006-09-30


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