「ジェーン・エア」シャーロット・ブロンテ

“It is not violence that best overcomes hate—nor vengeance that most certainly heals injury.”
憎しみにうち勝つ最上のものは暴力ではないわ。また傷を癒す最良のものは復讐ではないことよ(引用)

シャーロット・ブロンテの『ジェーン・エア』 原題『Jane Eyre』 1847年
ブロンテ三姉妹の一番上のお姉さんの作品です。


あらすじ
ジェーン・エアは両親を早くに亡くし、母方の伯父の家にひきとられるものの、伯父も死亡し、血のつながりのない伯母のもとで、虐げられながら暮らしていました。ある日、あまりの仕打ちに耐えかねて、ジェーンは伯母に反発します。しかし、そのためにますます疎んじられ、慈善学校に入れられることになります。
学校の生活環境は劣悪で、食事も衣服もろくなものが与えられず、伝染病が蔓延し、多数の死者が出ます。
ですが、学校では友人や、よき先生との出会いもあり、ジェーンは伯母の家で暮らすよりはずっと楽しい日々をおくります。そして学校を卒業し、教師となったジェーンは、より広い世界をもとめて家庭教師の職を探し、その家の主人と恋におちてしまいます…


あまりにも有名な作品なので、いつか読まないとと思いつつ、読まずにいました。
英国文学史上に残る女性の自立の物語らしいので、堅苦しくて重苦しい作品なんじゃないかと思っていたのです。
でも読んでみたら、想像してたよりずっと楽しい娯楽作品でした。正直な感想…怪奇小説でした。ゴシックホラーの味わいで面白かったです。妖精がどうのこうのって話もやたらでてきますし。


しかし驚くのが、この作品が160年も昔に書かれた物語だということ。たしかに、この時代…ヴィクトリア朝の道徳観や倫理観は今の時代とは違うようですし、わかりにくい部分もあります。たとえば、離婚してしまえばいいだけのことなのにそれをしないのは、この時代はそうすることが難しかったのかな…とか。あとがきによると、女性から告白することさえ衝撃的とされていた時代らしいですし、女性が自立を考えるどころか、女性に感情や自我があるというようなことすらもしかすると衝撃的とされたのかしらん…とか、正直よくわかりません。女性が小説を書いて発表するということすら、あまりよくないこととされていた時代のようですし…
そういった、よくわからない部分もあるにせよ、よくわかる部分のほうが多いこと、それが驚きでした。
心理描写や人物描写が巧みで、恋人の男性ですら、理想的に書きすぎるのではなく、欠点があり、ずるさや傲慢さのようなものもあって、主人公はそれを見抜きながら、それでも惹かれる部分があって惹かれていくというあたりが、リアルで説得力があります。


怪奇小説…と書いてしまいましたが、手法や空気が怪奇小説めいているのであって、怖い小説というわけではないです。心霊現象というより、おそらくは神様の奇跡か、精霊の導きか、たぶんそんなような超常現象が起きますし、殺人未遂などミステリーみたいな仕掛けもありますが、この小説がどんな種類の小説かというと、恋愛小説として考えるのが一番しっくりくる気がします。


なお、英語の原文はProject Gutenbergで読めます
http://www.gutenberg.org/ebooks/1260

朗読もきけます
http://www.gutenberg.org/etext/23077


邦訳はいろんな出版社さんからいろんな訳がでています。「ジェーン・エア」もしくは「ジェイン・エア」というタイトルが多いです。
私が読んだのは新潮文庫の大久保康雄:訳。上下巻です。


ジェーン・エア (上) (新潮文庫)ジェーン・エア (上) (新潮文庫)
C・ブロンテ

新潮社 1953-02


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