「夏の王」O.R.メリング

The Summer King (The Chronicles of Faerie)The Summer King (The Chronicles of Faerie)
O. R. Melling

Harry N Abrams 2007-05


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O.R.メリング(O.R. Melling)の「夏の王」、原題「The Summer King」(1999年)
「妖精王の月」につづく「The Chronicles of Faerie」シリーズの二作目です。
といっても、「妖精王の月」を未読でもとくに問題はないかと思います。「妖精王の月」に登場した人物は、顔見せていどの登場で、物語には深く関わってきません。
邦訳は講談社から井辻朱美:訳。こみねゆら :表紙画

あらすじ:
今回の主役は、ローレル・ブラックバーンという少女。双子の妹が残した日記を手がかりに、妖精たちと関わりをもちます。ローレルの妹のオナーは、妖精たちからある使命を与えられ、それを果たす途中で命をおとしました。その使命を、ローレルに代わりに果たしてほしいというのです。夏の王をさがしだす、それが与えられた使命でした。今年は妖精島のハイ・ブラシルが七年に一度姿をあらわす特別な年にあたり、夏至祭の前夜、ハイ・ブラシルに夏の王が火をともさなければ、この世界と妖精の世界は永遠に引き裂かれてしまうのです…

前作と引き続き、邦訳と洋書(アメリカ版)と両方読みました。アメリカ版は、「妖精王の月」も加筆がかなりされていましたが、この「夏の王」も加筆がかなりされています。細かいエピソードが増えたり削られたりセリフが変えられたりしています。が、大筋は変わっていません。

カナダ版の原書をもっていないのでなんともいえないのですが、邦訳だと「グルアガッハ」となっている妖精が、「Fir Fia Caw」となっています。これはゲール語では「Fir Fiacha(Dubh)」、英語で「Raven Men」という意味、つまりカラスの妖精のようなのですが、詳細はちょっとよくわかりません。

「グルアガッハ」のほうは、水とつながりのある妖精で、びしょ濡れで人の家を訪ねては、火のそばで体を乾かしたいと頼む習性があるんだそうです。この「グルアガッハ」とよく似た妖精に「Fir Dhearga(フィル・イァルガ)」というのがいて、そちらは「赤い男」という意味。(参考:冨山房「妖精事典」キャサリン・ブリッグズ)
「Fir Fiacha(Dubh)」の「Dubh」はゲール語で「黒い」という意味のようなので、こちらは「黒い男」という意味かな…?
名前は似てるのですが、フィル・イァルガの特徴と、「Fir Fiacha(Dubh)」はあまり一致しないので、べつの妖精っぽい気がするのですがよくわかりません。

そのほか、登場する妖精としては、前作ではレプラコーンでしたが今作ではクラリコーン。クラリコーンのほうがレプラコーンよりちょっと陽気なんだとか。

七年に一度姿をあらわすハイ・ブラシル(Hy Brasil )に関しては、ピーター・トレメインの「アイルランド幻想」でも題材にした短編があります。

物語の重要な舞台になるアキル島の伝説で、本文中に言及されている
十五世紀の「ファーモイの書」の中にでてくる「フィンタンとエーケイルの年古りたタカの伝承(The Colloquy between Fintan and the Hawk of Achill)」はこちらのサイトさんで読めます(ゲール語みたいなので私には読めませんが…)→http://www.ucc.ie/celt/published/G109001/index.html


夏の王夏の王
O.R. Melling 井辻 朱美

講談社 2001-07


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