「妖精王の月」O.R.メリング

The Chronicles of Faerie: The Hunter's Moon (Chronicles of Faerie)The Chronicles of Faerie: The Hunter's Moon (Chronicles of Faerie)
O. R. Melling

Amulet Books 2006-04-19


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O.R.メリング(O.R. Melling)の「妖精王の月」、原題「The Hunter's Moon」(1993年)

以前に邦訳だけ読んだことがあるんですけど、原著はカナダだったので入手が難しかったんですね。でもアメリカ版が2006年ごろから刊行されはじめて、ペーパーバックにもなったので、邦訳とあわせて読んでみることにしました。
「妖精王の月」は、四部作の第一作ですが、これ一作でも完結しています。続編の「夏の王」(原題:The Summer King)が書かれたのはこの作品が発表されてから六年後のことですし、最初はシリーズ化するつもりではなかったのかもしれません。第三作「光をはこぶ娘」(原題:The Lightbearer's Daughter)、第四作「夢の書」(原題:The Book of Dreams)で完結しています。シリーズはすべて邦訳は講談社から井辻朱美:訳ででています。「夢の書」は上下巻です。
現在のところ、アメリカ版は「光をはこぶ娘」までペーパーバックになっています。最終巻は来年ハードカバー版が発売予定のようですので、PBになるのは再来年くらいかもしれません。

で。読み比べてわかったのは、加筆や改変がかなりされていること。といっても、大筋は変わっていません。細かいところにいろいろ手が加えられています。
たとえば、エンヤやクラナドのポスターが部屋にはってあったり、ロビンフッドの映画の話をしていたようなところが、映画ロード・オブ・ザ・リングの話になっていたり、手紙でやりとりしていた、の部分が手紙とメールで…、など、いまの時代にあわせて変えてあったり、最初にヒッチハイクしてた場面がバスに乗るに変えてあったりなど。
また、ことあるごとに主人公のグウェンが、「アメリカ人じゃなくてカナダ人!」と主張してたのが消えていますし、アメリカ人批判みたいなところはだいぶ薄められています。
本文に引用されている詩なども種類が増えています。
あと、ネタバレになるので詳しくは書けませんが、最後のエピソードもシチュエーションが少し変えられています。戦いが終わって一年後になっていたりします。

あらすじ:
十六歳の少女、フィンダファーとグウェニヴァーはいとこ同士。こどものころから妖精を信じていて、彼らを探しにアイルランドを旅することにします。ふたりは多くの伝説に語られているように、妖精の塚山で一晩明かすことにします。すると妖精がやってきて…。

フィンダファー Findabhair というのは、O.R.メリングの娘さんの名前でもあるそうです。ケルト神話、クー・フリンのでてくる、「クーリーの牛争い」に登場する、コナハトのメイヴ女王の娘の名前ですね。「find」(白い)と、「siabair」(幽霊、幻)から成っている名前だそうで、ウェールズ語のグウェニヴァー Gwenhwyfar と同じだそうです。(参考:創元社ケルト事典」ベルンハルト・マイヤー)
グウェニヴァーといえば…
これもネタバレになるのであまり書けませんけど、最初に読んだとき、なんでエクスカリバーが出てくるんだろう…と思ったのですが、よく考えてみればグウェニヴァーといえばその恋人はアーサー王にきまってました…。王妃の恋人といえばランスロットという頭があったので、彼がアーサー王的人物として描かれているとは気づけませんでした…。


妖精王の月妖精王の月
O.R. Melling 井辻朱美

講談社 1995-02


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