「海駆ける騎士の伝説」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ

Unexpected Magic: Collected StoriesUnexpected Magic: Collected Stories
Diana Wynne Jones

Eos (T) 2006-02


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And Falleyfell is a kingdom out in the bay. So dangerous is it that he who sees it is as good as dead.
……ファレーフェルは海のかなたにある国。それはそれは危険なところでな。ひと目見たが最後、死んだも同然(引用)

ダイアナ・ウィン・ジョーンズの「海駆ける騎士の伝説」(原題:Everard's Ride)
原書は、この作品を表題作とし八作品の短編を集めたものが1995年に限定1000部で出版され、その後、2004年に「Unexpected Magic」という短編集に再録されました。しかし実際にこの作品が書かれたのは、1966年、まだ作家デビューする以前。作者は、この作品を含めて6作品を自分の楽しみのためだけに書き、これはその最後の作品だったということです(ほかの5作品は残念ながら処分してしまったとのことです…)。
邦訳は、徳間書店から野口絵美:訳、佐竹美穂・挿絵で出ています。原書の「Unexpected Magic」に収録されている他の短編は、「魔法!魔法!魔法!」というタイトルで、他の短編集からの短編も加え、別の一冊にまとめられています。

物語の舞台は英国、ヴィクトリア女王の時代(在位1837年〜1901年)。アレックスの父親は、ただの小作農から身を起こし、鉄道の株で財産を築き、没落貴族のコーシー家から城つきの島を買い取ります。そこは幽霊が出るとのうわさでした。アレックスは上流階級の子供たちとのつきあいは苦痛と感じていましたが、父親はコーシー家の子供たちと仲良くしろといいます。
ある年、クリスマス休暇の前、アレックスが姉のセシリアとすごしていると、騎士の格好をした若者があらわれて…?

邦訳と洋書と両方読みました。英語は、後の作品にみられるような、言葉遊び、ひとつの言葉に二重の意味をこめるようなものは無く、ストーリーもシンプルなので、比較的読みやすかったです。ただ私は、ヴィクトリア朝や英国の歴史に関する知識が乏しいので、邦訳の注釈は勉強になりました。英国の人身保護法とか、頭にわらがついてる意味とか、フォークをつかわずにナイフだけで食べるとか…。


怒りっぽい父親、エキセントリックな少女、恋と反発と友情などなど、その後の作品にも繰り返し出てくるようなモチーフやキャラクターが、この作品にもいくつか見られます。男の子同士がなぐりあって仲良くなるような、むかしの少年漫画の王道のような展開がほほえましい。別世界の騎士に恋をして少女が海を渡る場面などは、少女漫画のようにロマンティックです。



「Castles in the Air(空想にふける)」という言葉が何度もでてきて、ひとつの小題にもなってるのですけど、どっかでよく目にしたフレーズだなと気になっていたら、そういえばハウルの動く城の続編の原題が「Castle in the Air」でした…


海駆ける騎士の伝説海駆ける騎士の伝説
Diana Wynne Jones 野口 絵美

徳間書店 2006-12


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