影のオンブリア

Ombria in ShadowOmbria in Shadow
Patricia A. McKillip

Ace Books 2003-02-04


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

"This palace," he had said, "is a small city, past lying close to present like one shoe next to another. If you look at them in a mirror, left becomes right, present becomes past…"
この宮殿は小さな都だ。過去が現在と隣りあっている。一足の靴のように。鏡に映してみれば、左が右になり、現在が過去になるような…(本文より)

パトリシア・A・マキリップの「影のオンブリア」(原題:Ombria in Shadow)2002年。
2003年の世界幻想文学大賞長篇部門賞受賞作。
邦訳は早川文庫、井辻朱美:訳。Kinuko Y. Craft :表紙画

原書と邦訳と両方読みました。先日のサイベル〜のほうは、ジュブナイル作品として発表されたものだったからか、比較的英語も読みやすかったのですが(それでも私には邦訳のたすけが必要でしたけど)、こちらはちょっと今の私のレベルでは半分も理解できませんでした…。たとえば「draw」という単語の二重の意味、「描く」ということと「引き寄せる」ということが、魔術的力をもって登場するのですが、邦訳を読まなければそれにも気づけなかったです…すごく重要なところなのに。

洋書は、ペーパーバックはアメリカ版、イギリス版と両方でています。原書はアメリカ版です。

内容は、
元大公の妾妃だった酒場娘が、幼い世継ぎの少年を魔女の手からいかに救うか…
というのが、物語のまず一本の大きな軸となり、そこに、白い髪と銀の瞳の私生児、地下の世界に棲む女妖術使いと、その蝋人形の娘などが絡んで物語を色彩豊かに彩ってゆきます。
光と闇、高みと奈落、絶望と希望とその間の世界をいったりきたりする物語といえるかもしれません。登場する人物たちの多くは、自分がどこにも属していない、どこにいても浮いた存在であるような、よるべのなさを抱えています。どこにも属していないから、あちらの世界にもいけるしこちらの世界にもいける、しかしどちらの世界でもその存在は影のよう、という感じです。
 

◎気になったこと

サイベル〜のときも、名前がそのものを支配する、といったようなあたりで、ゲド戦記アーシュラ・K・ル=グウィンの影を少し感じたのですが、このオンブリアでも、扇をつかって二つの世界を表現する手法が、ゲド戦記の四巻に出てくる扇をつかって竜人を説明する手法と似てる気がします…。それだけでは何ともいえませんけど、マキリップはル=グウィンの作品、たぶん好きな気がします…たぶん。


影のオンブリア (ハヤカワFT)影のオンブリア (ハヤカワFT)
井辻 朱美

早川書房 2005-03-24


Amazonで詳しく見る
by G-Tools