「妖女サイベルの呼び声」パトリシア・A・マキリップ

The Forgotten Beasts Of Eld (Magic Carpet Books)The Forgotten Beasts Of Eld (Magic Carpet Books)
Patricia A. McKillip

Magic Carpet Books 2006-01


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

The giant Grof was hit in one eye by a stone, and that eye turned inward so that it looked into his mind and he died of what he saw there.
巨人のグロフは片眼に礫を喰らった。するとその眼は裏返って彼の心(マインド)をのぞき見た。彼はそこに見たもののゆえに死んだのだ(本文より)

パトリシア・A・マキリップ(Patricia A. McKillip)の「妖女サイベルの呼び声」(原題:The Forgotten Beasts of Eld)1974年。
邦訳は早川文庫、佐藤高子:訳。

1975年の世界幻想文学大賞受賞作品です。
以前に邦訳だけ読んだことがあって、好きな作品でしたので英語でも読んでみることにしました。一応アメリカ版が原書になると思うのですけど、エディションはいくつもあって、ペーパーバックにもなっています。

あらすじ:
エルド山に棲み、魔術師の血を受け継いで強い力をもった美しい乙女サイベルは、その不思議な力でもって、いにしえの獣たち、いまは名を忘れられたが、いまも偉大な獣たちを呼びよせ、ともに暮らしていました。
ある日、ひとりの若者が赤児をかかえてサイベルのもとを訪れます。若者は、エルドウォルドの王妃とサイベルが親戚であること、赤児は王妃の不義によって生まれた男子であることなどを告げ、サイベルに赤児をあずけます。
国と国、権力をめぐる男たちのさまざまな争いや確執、思惑が赤児をとりまき、やがてそれはサイベルや獣たちをも巻き込むことに…

世俗ときりはなされた閉じた世界で暮らしていて、人間というよりも妖精か何か、ホワイトレディとよばれ、氷姫のようであったサイベルが、愛情と、そして憎悪と、赦すことと赦されることなどを学んで人間らしくなっていきます。基本的にはロマンティックなラブストーリー。


以前に邦訳だけ読んだとき、登場人物や登場する幻獣たちの名前が多くて混乱し、国と国との力関係…王たちの上にも王がいて云々、ある国の王でありながらもうひとつの国の王でもあるみたいな関係…などもよくわからなかった記憶があるのですが、あらためて読んでみると、さほどややこしくありませんでした。
兄弟いっぱいいすぎ、とだけ思っていたことも、七男の七男という重要設定だったことにも今更ながら気づきました。こんなに兄弟をたくさん出す必要がどこにあるんだろう、と思っていましたけど、ちゃんと意味があった…。

◎気になった点

邦訳p181「コーレンと結婚することに〜」のコーレンはドリードの間違いじゃないかという気がします…
邦訳p204「エルドが素裸のあんたを〜」のエルドは、ギルドの間違いじゃないかと…

写植(?)のミスか何かかなあという気がしますが。

なお、この作品は岡野玲子さんが「コーリング」という題名で漫画化しています。そちらは全三巻。


妖女サイベルの呼び声 (ハヤカワ文庫 FT 1)妖女サイベルの呼び声 (ハヤカワ文庫 FT 1)
佐藤高子

早川書房 1979-02


Amazonで詳しく見る
by G-Tools