「銀色の愛ふたたび」タニス・リー

Metallic Love (Bantam Books)Metallic Love (Bantam Books)
Tanith Lee

Spectra 2005-03


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Forever, it feels like. Till I am dust and you are rust, I must.
永遠に、という気がした。あたしが塵(ダスト)になり、あなたが錆(ラスト)になるまで、変わらずに。(訳は邦訳より引用)

タニス・リーの「銀色の愛ふたたび」(原題:Metallic Love)2005年
早川文庫、井辻朱美:訳。訳者あとがきはなく、ひかわ玲子:解説。久織ちまき:表紙。

「銀色の恋人」の続編です。前作から二十四年の歳月をへて発表されたもの。
そのせいもあってか、前作とはかなり異なります。
主人公も違っていますし、ジェーンとシルヴァーの甘い恋のつづきを期待すると、裏切られるかもしれません。
特に前半は、前作のジェーンとシルヴァーの恋愛が、本当に愛だったのか、夢見る少女の妄想にすぎなかったのではないか、あるいはロボットの演技に騙されていただけなのではないかといったふうに、ふたりの関係、ロボットに魂があることなど、すべてを否定するような展開にすらなっています。
それは前作のラストで泣いたのがバカみたいに思えるほどで、これは続編としては試みとしては面白いけれど前作が好きだった人を喜ばせるために書いたものではないなあ…と思いもしたのですが、最後まで読むと、そうでもなく前作が好きだった人への配慮もあるように思いました。


今回登場するヴァーリスと、シルヴァーをまったくの別人(別ロボット?)と考えることが最初は難しかったのですけど、輪廻転生ものによくある命題、
・前世の記憶をもつものがいたとして、その記憶の自分と現世の自分は同じものなのか?
といったようなことを考えていくと、べつものだと割り切ることもできて、それさえできればストーリー展開もおもしろく、伏線が随所に散りばめられ、ラストで謎が一気に解明されるなど推理小説的な要素もあり、楽しめました。


前作でも、ジェーンの母親の名前がデーメータで、ジェーン自身もプロセルピナについて言及しており、ギリシア神話を下敷きにしているふうではあったのですけど、今作のほうがよりそれは強化されているように感じます。
シルヴァーは無垢で優しく、冥界の王ハデスというよりは天使のようでしたけれど、今作に登場するヴァーリスは堕天使ルシファーのもつ危険な怖さのようなものをもっており、より冥界の王らしいです。
登場するほかのロボットたちも、オリュンポスの神々のように美しく、さまざまな能力をもち、人間以上の存在として描かれます。
人間とロボットの力関係が逆転し、神話めいた世界が構築されていくさまには不気味さと、ある種の美しさを感じました。


銀色の愛ふたたび (ハヤカワ文庫 SF リ 1-3)銀色の愛ふたたび (ハヤカワ文庫 SF リ 1-3)
井辻 朱美

早川書房 2007-05


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