「空を駆けるジェーン」ル=グウィン
"Being different is difficult," Thelma said."And sometimes very dangerous."(本文より引用)
S.D.シンドラー絵、アーシュラ・K.ル=グウィン文
空飛び猫シリーズ第四巻「空を駆けるジェーン−空飛び猫物語 Jane on Her Own : A Catwings Tale」1999年。
いまのところシリーズ最終巻となっています。
1.2巻までは邦訳も読んだのですけど、3巻とこの巻は原書だけ読みました。
農場での変わらない毎日の平和な暮らしに飽きたジェーンは、刺激と交流を求めて都会へと羽ばたきます。
そうしてひとりの男性の家へと、開いていた窓から飛び込みました。
男の人はジェーンのことをとてもかわいがってくれました。きれいなベッドに、おいしい食べ物。でも、首に巻かれた紫のリボンは、ジェーンを息苦しくさせる気がしました。それに、男の人はジェーンを外に出してくれません。窓はいつもかたく閉じられ、移動するときは猫用のキャリーで、しかもテレビ出演のためです。
スタジオでは、何度も何度も同じ、つまらない芸をさせられます。
農場での暮らしのほうが、よっぽど楽しかったと思いはじめたジェーンは…
ジェーンを閉じ込めて、新聞やテレビに出演させてお金をもうける男の人の名前は出てこず、ただ"Poppa パパ(とうさん)"とだけ表記されます。
そうして彼はジェーンのことは、ふたりのときは"Baby"と呼び、カメラマンや記者などがいる場所では"Miss Mystery"と呼びます。そのどちらも名前とは言いがたいです。
このあたりがふたりの関係を象徴しているようでおもしろいなあと思いました。というのも、このシリーズで空飛び猫たちにとって信頼できる人物は、猫たちの名前を、不思議と正しく当てることができるからです。
ゲド戦記の作者だから、名前に関するあれやこれやは意図的だろうなと思います。
Poppaとジェーンは、互いに真実の名(笑)を知らない、あるいは互いに名前なんかどうでもいいと思っている関係ですね。名前はその人や、そのものの本質であると考えると、お互いに本質、中身をみていないことになります。
Poppaはジェーンの外見、すがたかたちだけに価値を置いています。ジェーンはジェーンで、Poppaの本質、本当の優しさではない優しさ、をなかなか見抜けずにいます。贅沢はさせてくれるけれど自由にはさせてくれない、それこそ猫かわいがり状態だけれど本当の意味では愛していない…。
Poppaはジェーンが求めていた"friend"とは、ちょっと違っていたようです。
それにしても冒頭の猫たちの怠けっぷりがうらやましい…
邦訳は文庫になっています。村上春樹:訳
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英語版
Jane on Her Own: A Catwings Tale (Catwings) Ursula K. Le Guin S. D. Schindler Scholastic Trade 2003-05 売り上げランキング : 31709 Amazonで詳しく見る by G-Tools |