「ぼくのつくった魔法のくすり」ロアルド・ダール


不思議の国のアリス」で、あやしげなクスリを飲んで、体が縮んでしまったアリス。

"for it might end, you know," said Alice to herself, "in my going out altogether, like a candle. I wonder what I should be like then?"
「だって、どう、もしかして」とアリスのひとりごとだ、「しまいにすっかり、ローソクみたいに消えてなくなっちゃうかもよ。そしたらあたし、いったいどうなるのかな?」(矢川澄子:訳p22より引用)


言いながらアリスは、ローソクが消えたあとの炎が、いったいどうなっちゃうのか、あれこれ想像してみます。なにしろそんなもの、いちども見たことがないのですから。


ロアルド・ダールの「ぼくのつくった魔法のくすり」は、ある意味、年を取ったアリスの物語…かもしれません。
この物語に登場する、意地の悪いおばあさんは、孫である主人公に、おまえは大きくなるのが早すぎる、と叱ります。成長するのは良くないことだ、と。
主人公が、

"But we have to grow, Grandma. If we didn't grow, we'd never be grown-ups." (p4)


「大きくならなきゃ、大人になれないじゃないか」と反論すると(たしかに大きい人と書いて大人ですからね)、おばあさんは、

Look at me. Am I growing? Certainly not. (p4)


と答えます。つまり、このおばあさん、大人じゃないのです。コドモなのです。
性別が女性で、コドモだというのなら、それはすなわち「少女」ということになります。少女といえば、アリスですよね。
ちなみに、主人公は8歳の男の子で、おばあさんは、「8歳はもう大きすぎ」というのです。このあたり、「鏡の国のアリス」で、アリスの年齢が「7歳6ヶ月」だときいたハンプティ・ダンプティが、

An uncomfortable sort of age. Now if you'd asked my advice, I'd have said 'Leave off at seven' - but it's too late now.
どうもやりきれない年頃だなあ。ぼくに相談にきてくれれば、<七つでやめときなさい>って忠告してあげたのに。でももう手遅れだ(矢川澄子:訳p107より引用)


という、やりとりを思い出させます。


そうして、この物語を読み終わったあと、アリスではありませんが、
ローソクが消えたあとの炎について、いろいろ考えずにはいられない気持になりました。


なお、物語としては、べつに不思議の国を旅するといったものではなく、主人公の男の子が、おばあさんをギャフンといわせるため、家の中にあるいろいろなものを混ぜ合わせて、すばらしいクスリをつくり、それをおばあさんに飲ませる、といったもの。
ページ数は90ページくらいで、それほど厚くありません。絵をみればストーリーもわかると思います。


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ぼくのつくった魔法のくすり (ロアルド・ダールコレクション 10)

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