「アッホ夫婦」ロアルド・ダール

ロアルド・ダールの「アッホ夫婦」(「いじわる夫婦が消えちゃった!」)を読みました。


世にも醜悪な夫婦に虐待されたサルが、しかえしをする、といったストーリー。
最初は、この夫婦がいかに不潔で、アホで、性格が悪いか、といったことについて、愉快に語られます。
まず、ダンナのほうは、ものすごいヒゲもじゃで、ヒゲの手入れどころか、洗ったことすら一度もありません。そのため、ヒゲのなかには、細かい食べカスがくっついていて、腐ったりカビたりして、不快なにおいを発散しています。しかし、そんなわけですから、ダンナさんは、おなかがすくということがありません。おなかがすけば、ひげのまわりをなめればいいんですから…。
奥さんのほうは、ヒゲははえていないけれど、そりゃもう、顔をそむけたくなるような、醜い顔。いつも杖をもち歩いているのですが、「足の裏にイボがあって、それが痛いから」なんていう理由は、もちろん本当じゃありません。本当は、犬とかネコとか小さな子供たちなんかをたたくために持ち歩いているのです。
そんな奥さんですが、昔は美人といってもいいくらいの、きれいな顔立ちでした。それがなぜ、ひどく醜くなってしまったのでしょう?
作者は述べます。


If a person has ugly thoughts, it begins to show on the face. (p9)


人間、毎日毎日、醜悪なことばかり考えていると、顔もどんどん醜くなるのだ、と。


それでは、この夫婦、毎日毎日、いったいどんな悪いことを考えたり、やったりしているのかというと、
ベッドにカエルをほうりこんだり、スパゲッティと偽ってミミズを食べさせたり、風船をたくさんつけて月まで飛ばそうとしたり…そんなことばかり。
しかし、この夫婦が、お互いにお互いをやりあっているだけなら、いいのです。かわいそうなのは、夫婦に飼われているサルたち。
夫婦は、サルのサーカスをつくるため、毎日毎日、サルたちに逆立ちをさせ、芸の練習をさせます。サルたちは何時間も逆立ちをさせられ、気分が悪くなっても、いわれたとおりにしないと、杖でぶたれるのです。
また、夫婦の水曜日の夕食は必ず「Bird Pie」と決まっていて、たくさんの鳥たちが、強力な接着剤のぬられた木の枝にとまっては、逃げられなくなり、パイにされています。
サルたちは、なんとかして鳥たちに危険を知らせたいのですが、アフリカの言葉しか喋れないため、知らせることができません。
そんなある日、一羽の鳥がやってきて…?


70ページくらいの短いお話ですし、絵を見れば話の展開はわかります。英語もそんなに難しくありません。
ラストがちょっとブラックです。


●マグルとマグル


話の内容と直接関係はないのですが、この物語に登場する、おサルさん、マグル・ワンプって名前なんです。マグルといえば…ハリポタですよね…。綴りもMuggle で、ハリポタのマグルと同じなんです。
で、辞書をひくと、マグルって、マリファナの隠語なんですよね…。ラリッテルとか、そういう意味があるのかどうかは、わかりませんが、そうでなくても英語で「mug」がつく言葉は、どうも、あまりいい意味の言葉ではないようです。
私、マグルって、たんに「ふつうの人」というていどの意味だと思っていたのですが、もしかすると、もっと差別的な言葉だったり…するのですか…? トンマとか、アホとか。それこそ、サルよばわり、に近い言葉だったりするのでしょうか…。
「mug」には、ガリ勉という意味もあるようですが…。


●六ペンスの歌


この物語には、マザーグースのモチーフが登場するように思います。「おばあさん」と「月」は、それこそマザーグースのイメージですし…。「鳥パイ」は、「六ペンスのうた」と関連していると思います。
この物語のなかで、木登りをした少年たちが鳥のかわりにつかまって、パイにされそうになるというくだりがありますが、「六ペンスの唄」のバージョンのひとつにも、鳥じゃなくて少年をパイに焼く、というものがあるようです。作者がそのバージョンを知っていたかどうかは不明ですが、それ以上に不明なのが、接着剤でくっついたズボンをぬぎすてて逃げさるとき、少年達はなぜズボンだけでなくパンツまで脱ぎすてて逃げたのか、そもそもパンツをはいていなかったのか、という謎…。


なお、「六ペンスの唄」について、ご存じないというかたは、こちらのページ→http://oak.fc2web.com/yosixpence.html
にまとめておきましたので、よろしかったらどうぞ。


→本の詳細・洋書(amazon)


邦訳は、新版は改題されて「アッホ夫婦」となって発売されています。旧題は「いじわる夫婦が消えちゃった!」です。新と旧では訳者さんが違います。

アッホ夫婦 (ロアルド・ダールコレクション 9)

アッホ夫婦 (ロアルド・ダールコレクション 9)

いじわる夫婦が消えちゃった! (児童図書館・文学の部屋)

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