「指輪物語完全読本」リン・カーター

トールキンの「指輪物語」について、リン・カーター(Lin Carter)が著したもの。
邦訳。荒俣宏:訳
私が持っているのは、映画「ロード・オブ・ザ・リング」の公開にあわせて、2002年に文庫化されたものですが、原書が発売されたのは1969年で、「指輪物語」が世に出てから、まだ三十年ほどしかたっていないころ、トールキンも存命で、「シルマリルの物語」はまだ出版されていないころのことです。


トールキンの「指輪物語」に関する研究書のようなものは、ほかにもたくさん出ており、この本が資料として、どのていどの価値のものなのかは、私にはわかりませんが、英米ファンタジーの歴史や成り立ちといったものにも章をさいているので、私としては「指輪物語」だけでなく、そのほかの「英米ファンタジー」といったものを知る上で、参考になった本です。また、個人的には、ダイアナ・ウィン・ジョーンズ作品におけるトールキンの影、といったものを追う上でも、参考になりました。今回、もうすっかり内容も忘れていた本書を、再び手に取ったのは、DWJ作品を読み解くには、その師匠(?)であるトールキン作品を読み解くことが、やはり大事なんじゃないか、という気持ちが、ずうっと、もやもやとしていたからです。


たとえば、「バウンダーズ」
原題の「The Homeward Bounders」は、指輪物語王の帰還」のBookⅥ 7章「Homeward Bound(家路)」からとっているのではないか?
また、主人公のジェイミーだけが「ひとりも殺せない」のも、「指輪物語」のフロドが、指輪を捨てたあと、すっかり聖人のようになって、「ひとりも殺さない」ことのパロディなのでは? 
「バウンダーズ」における「希望」=「指輪物語」における「指輪」と考えれば、「希望」を捨てることによって起きた結果についても、より理解できるのでは?
といったようなことが「もやもや」してます…。
そして、この「指輪物語完全読本」の7章によると、「エアレンディル=金星」らしいのですね。エアレンディルというのは、「人間の住む地へ戻ることを許されず、シルマリルをとりつけたかれの船は星として、また大いなる敵あるいはその召使たちの圧制に苦しむ中つ国の住人にとっての希望のしるしとして、天つ海原を航海させられることとなった」(本文より)らしいのです。そのことは興味深いです。


また、「ヘックスウッド」に関しては、
たとえば、この本の8章における、「ガンダルフオーディン」の指摘は面白く、もしそれが正しければ、「ヘックスウッド」における、「マーリン=ガンダルフオーディン」という図式がなりたち、「マルテリアン=オーディン」となります。
また、2章における、「古エッダ」から「ベーオウルフ」に関する記述も、「ヘックスウッド」を読み解く上での参考になると思いました。


…とはいえ正直、バウンダーズにヘックスウッド、読んだ内容、もう半分以上忘れてます…。
あと、「呪われた首環の物語」に関しても、これも「指輪〜」の影がちらほらするような気がしますが、それ以上に、どうもBBCの「The Celts〜幻の民 ケルト人」という番組(エンヤが音楽を担当したことで有名。DVD出てます)の影が強く見え隠れするような気がします。けれど、「呪われた〜」も、もう内容、すっかり忘れちゃったので、あんまり確かなことはいえません…。


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