「バウンダーズ」リターン

もう終わりにする、とか言っておいてアレですが。やっぱりディレクターじゃないな、プレイヤーだな、と思ったので、訂正として書きます。ダイアナ・ウィン・ジョーンズの「バウンダーズ」について。


まず、大事なのは「ペア」。主人公は、<He>とペアになった。


トランプというのは、上下逆さの向かい合わせの絵柄で、いわばシンメトリーとなっています。ふたつでひとつ、半身同士がくっついているわけです。
たとえば、ヨリスとコンスタムは、二人で一枚のスペードのカード。ヘレンとバネッサはハート。アダムは最初はジェイミーとペアだったけれど、ジェイミーが正規のバウンダーズではなくなったので、アハスエルスとペアになった。
ヨリスとコンスタムも、<They>より枚数の多いカードですが、このふたりは<They>によってDiscardされ、<Home>にも帰ってなかったので、一応、正規のカード。
正規でないのは主人公だけ。正規でないカード、つまりジョーカー。
だから<He>とペアになることができ、二人で一枚の完全なジョーカーのカードとなった。(作中で、<He>は悪魔の親戚だと何度も示されるのは、<He>=<Joker>だから)


で、ジョーカーはカードとしては使われない。カードではなく、プレイヤーなんです。
いわばジョーカー同士が、ほかのトランプのカードをつかって、「ブリッジ」の試合をくりひろげるわけです。相手チームのプレイヤーは、悪魔の頭領なので、これは一人でも二人です。で、<He>は主人公とペアとなったことにより、プレイヤーの人数が四人にそろって、ゲームは開始された。


悪魔の頭領、これはカインです。で、主人公=アベル
カイン対アベルの、どちらがRealかをかけた、ブリッジ勝負。
バウンダーズは、いわば、アベルチームの手札。スペード、ハート、ダイヤと揃っています。
一方、カインチームにはクラブしかいません。一番弱い。
しかも、他人のカードに触れたり、妨害してはいけないルールなのに、さんざん邪魔したから、ペナルティがある。アベルチーム優勢です。
主人公が<They>に触らないように注意していたのは、<They>が相手側のカードだから。次の勝負のときに、ペナルティをくらうことになりかねない。


次の勝負がおこなわれるかもしれないために、主人公は<He>のペアでいつづけることを選んだ。ジョーカーでいつづけるには、どこにも所属しないことが必要。どこにも属さない、完全なFreeのカード、それがジョーカー。
また、<He>は<all the worlds were Home>な人、なんですね。彼の<Home>がある場所は、いわばそのう、ナルニアでいうなら、まことのナルニアプラトンでいうなら、イデアなんじゃないかと。で、すべての人間世界はいわばイデアの影だから(たぶん)、すべての世界が<He>にとっては<Home>。でも、影といっても、すべての世界は<Real>で、イデアよりもRealityが少ないというだけの話…。とか書いておいてなんですが、イデアについて、私はきちんと理解しているわけではないので、これはおいといて。(ただ、<He>がイデアを離れたことでイデアからRealが薄れ、ほかの世界のRealも薄れていった、というのなら、世界にはたくさんの人間がいて、みんなそこをHomeだと思っているのに、なぜ<He>ひとりだけのせいで、世界はRealでなくなったのか、説明がつく気がします)
とにかく、
すべての世界は自分の故郷、と考える者と、すべての世界は故郷ではない、と考える対極の者ふたりがペアでひとつなら、世界は調和がとれる。バランスが完全になって、世界は完全にRealなのです。
影を持ちてこそ、完全な人間であるように。(ゲド戦記
<He>を完全にしておくために、<They>から守るために、<He>の影でありつづけるものが必要。<He>が<They>より弱かったのは、<He>が完全でなかったから。完全でさえあれば、ジョーカーのカードは、どのカードよりも強い。負けない。


<Masters>=<They>でしたが、<He>も<They>の仲間なので、<Master>の一人だと思います。
いわば主人公は<He>を自らマスターと選び、<servant>になったのだともいえるのかも。<He>=<神>でもあると思うので、いわば天使になった。ので、ものすごいハッピーエンド…ともいえるかも…。(たんに出家したともいえますが…女性より神を選んだ)
いずれにしても、カインの物語と思わせておいて、おもいっきりアベル主人公のところが、ひねくれているようで、正統派だなあ、と。
で、カインは故郷を追われたけれど、新しい故郷を手に入れることができた。でも、殺されちゃったアベルは、もう故郷には戻れないんですよね。そのかわり天使になれたとしても、それって…どうよ? というのが、この物語のテーマのひとつにあるんじゃないかなあ…という気がします。殺人って、その人から、なにもかもを奪うことですからね。お金も家族も友達も、恋人や大切なもの、なにもかも。
もちろん、上記の解釈が正しいかどうかはわかりませんが。考えるだけ考えたので、スッキリしました。


ただ、プロメテウスを救ったのがヘラクレスであることや、パンドラについても考えなくてはいけないのかもしれませんが…。(たぶん作者は考えているに違いないですし…)
ギリシア神話については、下記のサイトさんが大変面白くて参考になるなあと思いました。


こちら→http://web.kyoto-inet.or.jp/people/tiakio/antiGM/antiGM.html