「バウンダーズ この世で最も邪悪なゲーム」ダイアナ・ウィン・ジョ

ifyouaskme2005-09-04

ダイアナ・ウィン・ジョーンズの「バウンダーズ この世で最も邪悪なゲーム」(The Homeward Bounders)を読みました。邦訳と洋書と併せ読み。
バウンダーズとは、ボールが「バウンド」するとか、よく言いますが、そのバウンドと同じ意味ですね。ぴょんぴょん跳ね返るというか…、だから、チェスを頭に浮かべると、わかりやすいかと。人間が、チェスの駒にされちゃう物語です。
で、「Homeward」というのは、「家路に向かう」という意味なので、「Homeward Bounders」とは、「ぴょんぴょん跳ねながら家路に向かう者たち」といった感じでしょうか。邦訳では<故郷に向かう者>と訳されています。


この物語に出てくる「戦争ゲーム(ウォーゲーム)」とは、シュミレーションゲーム(戦略ゲーム)のことかな? と。将棋とかチェスとかもそうですし、テレビゲームで、そーゆうの、たくさんありますし、カードゲームでもありますね。その手のゲームを、<実際の世界>をつかって、遊んでいる<あいつら>がいる。で、主人公たちは、いわばそのゲームの傍観者、にされてしまうわけです。テーブルで将棋の勝負をしている人たちの、勝負の行方を見守ることはできるけど、口出しはできない。で、そのゲームの勝敗を見届けないまま、次は別のテーブルで碁の勝負をしている人たちを覗いてみる…といったような具合。それが、強制的に、そうされちゃう、と。


物語の筋は、比較的わかりやすくて、また一人称の物語だから、英語も比較的読みやすかったかな、という気がします(でも私には邦訳の助けが必要でしたが)
ただ、最後の章だけが、かなり、わかりにくい。何度か読み返して、私なりに考えたことなのですが、こういうことなのかな? と。


※以下ネタバレ注意!


まず、わかりやすく考えるために、以下のセリフに注目しました。
「全世界を自分の<故郷>と考えている何者かが、ただ全世界を記憶にだけとどめて、どこの世界にも行かずにいれば、そうした世界から現実を取り除くことができる」(本文より抜粋)
と。これが基本。
つまり、では、「世界が現実でありつづける」ためには、上のことと「反対のこと」をしなくてはいけないのです。「全世界を自分の<”故郷ではない”>と考えている何者かが、ただ全世界を”記憶にだけとどめることなく”、どこの世界にも”行けば”、そうした世界から”現実が取り除かれることはない”」と。
そういうことなんだな、と。
で、結局のところ、ゲームとは「戦争」のこと。戦争はなぜ起こるのかというと、「自分の国」と「ヨソの国」があるから。「自分の国」なんてものをもたない、流浪の民であれば、「ヨソの国」なんてものもないから、戦争はしない。でも、流浪の民が「自分の国」を持ちたがったとき、そのために戦争は起きる。戦争をおこさないためには、流浪の民でありつづけるのがいいが、「自分の国(祖国)」といったものをもてないというのは、とてつもなく孤独なことである、と。(イスラエル建国のことを暗に言ってるかもしれないなあ…と。確証はありませんが。イスラエルに関しては、最近ではガザ撤収が大きなニュースですし、たくさん情報は得られると思いますが、とりあえず私が参考にしたのはこちら→http://www.geocities.com/inazuma_jp/firstwar.html


また、ダイアナ作品には「現実感(リアル)の喪失」というテーマが繰り返し出てきますが、この作品もそう。「Home(自分の国)」とは関係ない、よその国が戦地なら、その戦争を、ゲームのように考え、楽しむことさえできる。何人の人の命が無くなったのか、ということさえ、ただの数字としか捉えることができない。そんな<あいつら>は、決して、異世界の住人ではありません。「どこの世界にもいる」のです。


ま、要するに、たんなる記憶や、知識だけでなく、実際にその世界(国)に暮らしてみなければ、そこでおきていることを「現実(リアル)」だと捉えることはできない。そのために世界は非現実化し、人は世の中で実際に起きていることを、ゲームのようにしか考えられない。けれど兵士は人間であってゲームの駒じゃないし、たとえ敵国の人間だって、人間であってゲームの敵キャラじゃないんだ、というようなことなのかなあ、と。ちがうかもしれませんが。


あと、この作品では、プロメテウス=イエス・キリストと、イメージを重ねて同一視している部分があって、いわば<神不在>から<神復活>の物語でもあるのですね。で、神復活とはどういうことかというと、「パラダイス(天国)」の復活である。パラダイスとは「永遠に争いのない世界」のことかもしれません。
この物語で、さまよえるオランダ人や、ユダヤ人はでてきても、カインがでてこないことの意味とか、そのへんのこととか考えると、なんかどんどん難しくなりそうで、とても私に解読しきれるものではないのですが。