「金剛石のレンズ」フィッツ=ジェイムズ・オブライエン

確かに鐘楼には悪魔がいた。ジューバルはもはや人ではなかったからである。(引用)
There was a devil in the turret, for Jubal was no longer man.

フィッツ=ジェイムズ・オブライエン Fitz James O'Brienの「金剛石のレンズ」、東京創元社 大瀧啓裕:訳 カバーイラスト:東逸子を読みました。
作者は1828年生まれ、アイルランドの裕福な家庭に育ち、巨額の遺産を継いだものの二年半で使いはたし、借金取りからのがれる目的もあってアメリカに渡ったとか…。アメリカの文壇ではケルトのポウと謳われたものの、南北戦争で受けた傷がもとで亡くなったのが1862年、享年33歳の短い生涯でした。
その短い生涯のなかで執筆した作品のなかから、14編を選んで訳されたのがこの本です。以前にサンリオ文庫から発売されていた「失われた部屋」の大幅な増補改訂版にあたるとのこと。


同じアイルランド系だからか、なんとなく、読んでいてダンセイニの作品がちょっと思い出されました。うまくいえないんですが、雰囲気というか、空気感が似てるというか…。
小品なんですが、「墓を愛した少年」「鐘つきジューバル」は、不思議と印象に残りました。
また、「手妻使いパイオウ・ルウの所有する龍の牙」は面白さがギュッとつまっている感じで好きです。「ワンダースミス」も面白かった。
「手から口へ」は、途中まではとても楽しくて、これからどうなるんだってわくわくしはじめたところで、唐突な終りがくるのが残念でしたけれど、最後の章だけ編集者が執筆したのだとか…。連載打ち切りみたいな感じだったのかな。むりやり終わらせた感がアリアリで、物語としては不完全なんですけど、でもそこを差し引いても魅力のある作品でした。イメージが奔放でよかったです。
あたりまえなんですが、古めかしい印象の作品が多いですけれど、その古さを楽しみつつ、のんびりした時間がすごせました。
原文はほとんど読んでいませんけれど、著作権が切れているので、無料で読めるサイトさんはいくつかあります。


収録作

  1. 「金剛石のレンズ」The Diamond Lens 1858
  2. 「チューリップの鉢」The Pot of Tulips 1855
  3. 「あれは何だったのか」What Was It? A Mystery 1859
  4. 「失われた部屋」The Lost Room 1858
  5. 「墓を愛した少年」The Child That Loved a Grave 1861
  6. 「世界を見る」Seeing the World 1857
  7. 「鐘つきジューバル」Jubal, the Ringer 1858
  8. 「パールの母」Mother of Pearl
  9. ボヘミアン」The Bohemian 1855
  10. 「絶対の秘密」A Dead Secret 1853
  11. 「いかにして重力を克服したか」How I Overcame My Gravity 1864
  12. 「手妻使いパイオウ・ルウの所有する龍の牙」The Dragon-Fang Possessed by the Conjuror Piou-Lu 1856
  13. 「ワンダースミス」The Wondersmith 1859
  14. 「手から口へ」From Hand to Mouth 1858


「パールの母」「ワンダースミス」「手から口へ」の三作以外の原文は、下記のサイトさんのページで読めます。
http://www.horrormasters.com/Themes/F-J.htm


パールの母の原文はこちら
http://www.horrormasters.com/Text/a4026.pdf


ワンダースミスの原文はこちら
http://arthursclassicnovels.com/arthurs/gothic/wondrs10.html


邦訳のあとがきで触れられていた、小説13篇を含む「フィッツ=ジェイムズ・オブライエンの詩と小説 The poems and stories of Fitz-James O'Brien (1881)」はこちらのサイトさんで読めます。(パールの母や、ワンダースミスも収録されています)
http://www.archive.org/details/poemsstoriesoffi00obririch
※一番左のView the bookの下から読みたい形式のものをクリックしてください。Read Onlineは本をスキャンした形のもの、Full Textは、テキスト形式。


「手から口へ」の原文はこちらで読めます
http://www.archive.org/details/goodstoriespart400obriuoft


上記のほかにも、無料で読めるサイトさんは探せばいろいろあると思います。

金剛石のレンズ (創元推理文庫)金剛石のレンズ (創元推理文庫)
Fitz‐James O’Brien

東京創元社 2008-12


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